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2006年12月31日

2006年をふりかえる

先日、東北大学医学部附属病院に行ったら、すっかり変わっていて驚いた。薬剤部もいつの間にか2階に上がっている。島津のMALDIも入っていた! 調剤室ではでかいピッキングマシンが患者ひとりひとりの処方にあわせて次々とバケットにクスリを入れてゆく。
『パラサイト・イヴ』を出版してから来年で12年になるが、当時とはかなり変わった。俺はあの頃、基礎系の研究を担当していたのだが、患者のモニタリングの研究の方は、お世辞にもまだ成熟したものとはいえなかったと思う。しかしあの頃夢に描いていたことは、いまかなり実現化している。この12年間で、本当に人の役に立つ仕事が「科学」になってきたということだろう。

先日、「今年のロボット」大賞の授賞式があり、やはりここでも「人の役に立つ」「ビジネスとしてきちんと成功している」ロボットが高く評価された。もうひとつ大切なのは、「安全である」ということだ。愛知万博が終わって、ロボット周辺の雰囲気もずいぶんと変化したのではないか。
この2006年は俺にとって、「本当に人の役に立つこと」が「科学」とようやくイコールで結ばれる現実が見えてきた年だった。言い換えるなら、「人の役に立つ仕事をしている人」が「科学者」と同義になり始めた、ということだ。もちろんそれ以前にもそのような動きは脈々と続いていたはずだけれど、それが俺のような隅の人間でも実感できるようになってきたというか。

一方で、どこかのジャーナリストが騒ぎ立てると、わっと皆がそこに注目して、科学者もそこに金脈があると色めき立つ、という構図もあからさまに見えた年でもあった。で、やっぱりそっちのほうが時流に乗っている感じがするし、派手に見える。「役に立つ」「安全」なんて地味だし、そういうことを一所懸命やっている人はウェブで声高に喚いたりしない。社会というのは、この両方で動いている。
で、作家として、じゃあおまえはどっちを取るのか、と問い掛けられているような気がした一年だった。作家としてなら、当然前者を取った方が(短期的には)儲かるに決まっている。でもそうでない方法だってあるはずだ。
12年間で薬剤部の仕事が当然のように科学になったように、きっと次の12年間で、作家という仕事も変わるだろう。

今年出版した本は次の通り。
新刊は『第九の日』『おとぎの国の科学』『境界知のダイナミズム』
文庫化は『八月の博物館』『贈る物語 Wonder』
ケンイチくんシリーズと『境界知のダイナミズム』は、図らずもこの12年間の集大成という感じの本に仕上がったので、これらが出版できたことは嬉しい。しかし『境界知のダイナミズム』は、書店によって置かれている場所がばらばらで笑える。ある書店は社会学、ある書店は人文・思想、ある書店は脳・神経。文理融合ってつまりこういうことなのだ。

この年末年始は、マイクル・クライトンの新作『Next』を読むつもり。遺伝子ものだが、巻末のお薦め本一覧はありふれた本ばかりでちょっとげんなり、もうクライトンもおしまいか、と思っていたら、チェスタトンの本が二冊も取り上げられていて目を瞠った。クライトンがチェスタトンをどう扱ったのか、俄然興味が出てきた次第。

来年はもっと小説を書きたい。ひたすらエンターテインメントを書きたい。でもその願いが叶うかどうかはわからない。
posted by 瀬名秀明 at 01:27 | TrackBack(0) | 読んで書く、書いて読む | 更新情報をチェックする
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